作家インタビュー(寺村光輔) パート1(日本語)
Artist Interview Kousuke Teramura (potter)

2014.03.15

Kousuke Teramura作家インタビュー第2回目。
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大橋トリオの曲が小さくかかっている。後ろでパチパチと薪ストーブの薪がはぜる音。
ゆったりとした時間の流れる中、益子の陶芸家・寺村光輔さんに実際に作業を見せていただきながらお話をうかがった。
*Please read “Artist Interview part 2” for English language.

ー陶芸を始めたきっかけを教えてください
始めたのは大学1年の時。友人と一緒に吉祥寺の陶芸教室でなんとなく体験してみたら面白かったんです。
Kosuke Teramura   無造作に積まれた貴重な材料たち
ーではプロを目指したきっかけは?
大学時代、ある大学の美術部のアトリエで自由に作らせてもらっていたのですが、やればやるほどわからないことが沢山でてきて、もっと勉強してみたいと思ったんです。就職は後でも良いかとそのときは思っていて。そのタイミングじゃないと自由に動けないと思ったのが大きいです。

ー修行に入られてからはいつくらいから本格的にやろうと思ったのですか?
3年くらい経ってからです。だんだんやりたくなってきてしまうんですよね、不思議と。
もっとこうした方がいいのにな、とか、こういうものが作ってみたいという思いが増えていき、親方に言うと「独立してからやればいい」と言われ、それで独立というものを意識しました。4年くらいするとできる事も増えて来て、もしかしてやっていけるんじゃないか?という気持ちが出て来ました。でも最後は「勢い」。

ーその時に、すでに自分はこういうものが作りたい、という作品の方向性がはっきりしていたのですか?
独立してすぐにやりたかったことに取り組みました。それが今の天然の灰を使ったものだったりします。
だんだん認められて注文が増えていき、今の自分のスタイルになっていった感じです。
高台を削りだす 使い慣れた道具達

ー作品を作っていて嬉しいと思う時、瞬間はどういう時ですか?
一番嬉しいのはお客様から料理を載せた器の写真を見せてもらったり、使ってますよ、と言われる事ですね。自分が作る意味がある、生きる意味があるな、と思います。飾る為のものを作っているわけではないので、実際に使ってもらうのがやはり一番嬉しいです。

ー寺村さんは「料理を盛って完成する器」をテーマに作っているとうかがいましたが?
そうです。料理が盛られたものを見ると、その時に完成というか、無限の広がりを感じます。こういう使い方もあるのか、とも思ったりしますね。

ー注文が背後に迫っていて、焦ったり、今日はうまくいかないと気持ちが焦ることはないですか?
手が動かない、というより気分が乗らなくて集中できないことはありますね。いかに自分を気持ちよく仕事させるか、それが大切だと思っています。本当に精神的な部分が大きいと思うので、楽しく仕事が出来れば相当作業は進むと思うんですよ、基本的には。

ー寺村さんの作品の特徴的なことを教えて下さい
益子の土で100%作っていて、職人が作る土を数種類ブレンドして現土に近い、あまり精製されていないものを多く使っているので、鉄(作品の表面に現れる鉄点)など、本来その材料が持っている風合いを残したいと思っていて、そういう土を選んで使っていることでしょうか。

ー寺村さんの作品の魅力に、釉薬による風合があると思うのですが、
材料の1つである寺山白土についておしえてください。寺山白土の魅力とは何なのでしょう?
(※寺山白土は栃木県矢板地区で産出されていたが、今はもう産出されていない)

基本は釉薬に使う原料で、石に近い成分なので昔は磁器の原料になっていたこともありましたが、鉄分が多かったり、不純物が多いので生地としては適しません。だけれど、益子は矢板で産出してから運ぶのにも近い場所だったので、それを原料として代用して使っていたのだろうと推測されます。
特徴は、雑味でしょうか。雑味が独特な益子焼に、元々透明な釉薬として使われていた物なので、その野暮ったさがあります。粘土質なので釉薬に混ぜたときに釉薬が固まりにくかったり、他の原料との折り合いがとても良いです。僕は意識して全ての作品の釉薬に多かれ少なかれ寺山白土を使っています。
寺山は光沢感を抑える、鈍くさせる方に作用します。それが独特の風合となります。また、寺山は火に強い(溶けずに硬い事を意味する)ので使っています。使っていくと自分が良いと思っていた、昔の「並白」という透明釉以外にも寺山は使われていたんだな、ということがわかってきました。

ーただ、現在は産出していませんよね?
僕は一生分買いました。
宝物です。

ー今後、どのようなものを作りたいですか? 新作の予定などは?
空いている時間というのは無いので、基本的に今は注文品を作ることに集中しています。
タイミングを合わせて新しいものを試す時間を作るしかありません。
ただ、自分次第で時間の使い方はどうにでもなりますから。また、それがフリーランスの良さでもあります。
やれる時に試し、実験しています。

新作は自分にとっては挑戦です。
自分自身も見た事の無いものができる楽しみもあります。
新作に取り組む時間を取れるよう、常に自分にプレッシャーをかけていくというのは大事なことだと思っています。

インタビューの後、工房の外にある様々な種類の灰のアク取り過程など見せていただいた。
水を換えては沈殿させアクを取り、また水を換え、を繰り返す。酸が強いものもあり、すぐに手で触る事は出来ない。
人の手を使い、1つ1つ時間をかけて工程をふみ、出来上がった灰を他の材料と調合して自分の出したい釉薬を作り上げる。
寺村さんは、例えば林檎の枝を燃して灰を作るなど、自然の材料から灰を作る。
同じ材料を使っても、その比率で焼き上がりは異なる。深い世界だ。

<寺村光輔プロフィール>
1981年 東京都生まれ
2004年 法政大学経済学部卒業
2004年 益子 若林健吾氏に作陶を学ぶ
2008年 益子町大郷戸に築窯 独立

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インタビューを終えて
白菜と舞茸、ナッツのサラダ

寺村さんと話していると、プレッシャーに対する精神力の強さと、モチベーションの高さをいつも感じる。
想像するに、相当忙しいはずなのに、良い意味で自分自身にプレッシャーをかけ、うまくエネルギーに換えているのだと思う。
そして自分の意識をそう持っていくことの大切さを知っている人なのだと思う。
実はなかなか出来る事ではないと、私は思う。
組織の中にいるのとは違い、一人で、黙々と作品に向かう作業というのは、想像以上にタフさを必要とする世界だと思う。
しかし、彼の作品にはピリピリと尖った感じが、ない。
大らかで、どんな料理をも受け止めてくれる温かみを感じる。
それでいて、形は野暮ったくなく、本人同様に洒落ている。

この取材に訪れた際、多忙なスケジュールの中わざわざこちらのために益子ツアーを考えて下さった。
高速バスを降りてから、帰りのバスに乗るまで、実にみっちりと魅力溢れる益子の町を案内していただいた。
石焼ピザのお店「茶屋雨巻」や、益子参考館、スターネットなど今の益子を代表する場所ばかり。
「遠くから来てもらった方を案内することも大切な仕事だと思っています。益子に来てもらって益子の良さを知って好きになってもらいたい、喜んでもらいたいんです。」と寺村さん。

本当に素敵な所なので、みなさんも是非訪ねてみて下さい!
春には恒例の益子陶器市も開かれますよ!(4月26日(土)~5月6日(火)開催予定)