作家インタビュー 田代倫章(パート1 日本語)

2014.11.15

シンプルで洗練された美しいフォルムと質感が印象的な田代さんのうつわ。何を盛ろうか、と毎回想像をかき立てられる。田代倫章さんの益子の工房をたずね、お話をうかがった。
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*田代さんの作品はLOCCA Online Storeで購入できます。

陶芸を始めたきっかけは何だったのですか?
函館から転校した先の大阪の高校で、部員が減り廃部寸前だった陶芸部に友人から誘われたのがきっかけです。でも実際にやってみたら自分に向いていると思いました。

— プロの道へ進もうと思ったのは?
高校で進路を決める際にもう少し陶芸を続けたいと感じていて、それで奈良芸術短期大学陶芸コースへと進学しました。その中でどこまで通用するのか試してみたくなり、それで短大卒業後さらに専攻科へと進みました。プロというか、仕事として意識し始めたのはその頃です。

— その後、活動の場に益子を選んだ理由は?
専攻科を卒業する際、製陶所などで働こうか弟子入りしてもう少し自分のできる事を試そうかと悩んでいるところに、大学の先生に紹介していただいたのが益子の今成誠一という個人作家の方でした。今成先生は元々備前で活動していた方で焼締を中心とした作家活動をしていて、当時僕も焼締に興味がありました。弟子入りする事はかなり勇気のいる事でしたが自分の回りの人達の助言もあり益子に来る事を決めました。(田代さんは今成誠一氏に師事し、6年の修行の後、益子で独立。

— 益子で独立しようと思ったのは何故ですか?
弟子入りした時は、益子で2年ほど修行してから関西に戻ろうと考えていたのですが、結局6年も今成先生の所に居ました。弟子入りから4〜5年あたりで独立を考え始めたのですが、関西に戻ろうか、益子で独立しようか。かなり悩むようになってしまいました。そんな中、先生の知り合い農家の方に空き物件を紹介していただいて、見に行くと住居は傷みが激しかったのですが、工場は自分が仕事場に求める理想に近いものがありました。それで、もう勢いで独立してしまえと思ったのです。

— 意外と流れに乗るタイプなんですね。実は作品がきちんとした感じなので、もっと性格も几帳面な方なのかと・・・
意外とそうではないです(笑)

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工房外観

天日干しするための台

窯場

田代さんの工房はご自宅の向かい。元々建物自体はあったそうですが、天井や壁、窯場も少しずつご自分の手で作り上げていったのだそう。最初は断熱材も入っておらず、冬にせっかく成型した器が凍ってしまうこともあったのだとか。
ご夫婦共に陶芸家(奥様は鈴木宏美さん)。工房は2つに分かれ、手作りの作業台が隣り合って並んでいる。作業台も田代さんによる手作り。田代さんの仕事はロクロと仕上げの場所が必要だが、スペースが限られているためその二つの作業を同じ場所で両立出来る様考えて出来たデザイン。作業台を持ち上げると下にはロクロが!
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陶芸に使う道具は割り箸など身近なもので工夫して作ることも。わかりやすいよう、よく使うものには何用か明記している。
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田代さんの仕上げは電気ロクロではなく手回しロクロで行うのも特徴。「元々今成先生がやっていた仕上げ方です。電気ロクロではないので時間はかかります。けど、その分機械で均一に仕上げた質感ではなく、少しいびつな土のあたたかみが残ります。」と田代さん。

— 昔から器用でしたか?
子供の頃から手先は器用でした。プラモデルもすごくこだわって作っていました。

— 作っている最中は無心ですか?
ロクロをひくときは集中したいですね。他の作家さんとも話題になったことがありますが、話しながら出来る人とそうでない人と分かれるみたいです。僕は出来ない人ですね。でも仕上げは話しながらでも大丈夫です

仕上げの作業中

仕上げの作業台

— 作業中は音楽などかけますか?
最近は上原ひろみやケイコ・リーなど、ジャズが好きです。あとはラジオ。
昔からオーディオが好きだったので仕事場の音響にもこだわりたいと思っていました。

— やっている作業によって音楽のジャンルはかえますか?
僕はゆったり派です。ずっと工房で作業をしているので、激しい音楽は少し疲れてしまいます。

— 陶芸以外には何か好きなことはありますか?
出かけたりもしますが、基本的にはずっと陶芸のことを考えているタイプですね。

― 例えば今度はこういうことを試してみよう、とかも考えていたりしますか?
そうですね。出てきたイメージを試してみたいと思うことはたくさんあります。ただ必ずしも、そのイメージした通りにならないのがこの仕事です。なので実際にやってみないとわかりません。

— 目の前にその結果が出るまでの時間が、陶芸の場合は長いですよね?
そうですね、うちの窯は大体月に1回焼く程度なんです。だから1回作ってみても、さらに改良しテストするにはまた1ヶ月先まで結果が分らない、ということになります。

— メモやノートをとっていたりするのですか?
あまり細かなことはつけてないですが、アイデアや、本当に大切だと思うことはつけています。また、実験は必ずノートにつけています。土や泥、釉薬のレシピなど全部書き残しています。定番として正規に使う物と、実験とでノートを分けています。

— 器は化学反応ですから無限にその組み合わせがあると思うのですが?
基本を決めておかないと、調合やその濃さ、何に対してどう使うのか、全部試したりやり過ぎたりすると泥沼にはまってしまって、通常の仕事ができなくなる恐れがあります。ついつい突き詰めたくなってしまう方なので、できるだけ必要なことだけをやるようにしています。

— よくうつわは使ってみないいとわからないといいますが、田代さんご自身はお料理されますか?またそれで変えてみるということもありますか?
レパートリーは少ないですが料理はします。実際に盛り付けて、使ってみて感じる事は多いです。もちろん、それで仕様を変更する事もあります。手で持った時の感触や口当りは、表面に施す釉薬や焼き方などでも変わってきます。焼締の場合は仕上げに使うヘラなども関係してきますし、焼きあがった後にペーパーで磨いたりもしています。

—田代さんの作品は薄いフォルムのものが多いですが、こういったシンプルな形にはどうやっていきついたのでしょうか?
元々シンプルなものが好きでした。薄作りなのはロクロを挽く時の自分の手のクセみたいなもので、それに合わせ仕上げも行うので自然とそうなりました。それから、これまで様々なテストをしてきましたが、その中で思い通りになったものもあれば、その倍以上に失敗がありました。けど、それがイメージ通りになっていなくても、その物の別の良さに気付ける自分の目を養うことも必要だと、ある時から感じるようになりました。その様にして出てきた様々な副産物も今の自分の器の姿に役立っています。そうやってずっと模索しながらやってきましたし、この仕事を続ける限りこれから先も研究しながらの作業になるのだと思います。その中でシンプルな形でも表情豊かな器を作りたいと思っています。

 

<取材を終えて>
私は料理をする際、作る前に献立と一緒にうつわも考えるのだが、順番としては献立が先のことが多い。だが田代さんのうつわは、うつわを使いたくて、今の季節なら何が合うだろう?とうつわに合わせて献立を考える。
想像することが楽しくなる、ワクワクする、自由を感じるうつわだ。
そして陶器市や個展などで見かけるたびに、新鮮な発見があり、今度はどう使おうかと高揚感が沸いてくる。
繊細な作りだけれど土のあたたかみを感じる。今回の取材を通し、あらためて田代さんのうつわに対するひたむきな情熱が伝わってきた。とにかく、手に取って、使っていただきたいと思う器である。

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<作家プロフィール>
1979年 宮崎に生まれる
2002年 奈良芸術短期大学陶芸専攻科卒業
2002年 今成誠一氏に師事
2007年 益子にて独立