作家インタビュー 高塚和則さん 木工房 玄(パート1 日本語)

2017.12.28

名水の里栃木県塩谷町で食器、小物、家具など様々な木工作品を手掛ける木工房 玄。

今回はその工房を訪ね、主宰の高塚和則さんをはじめ、工房で働く職人さんたちにもお話をうかがいました。
 

木工へのきっかけを高塚さんにうかがうと、高校までは毎日サッカー漬けだったそうですが、進路を決めるとき、元々物を作ることが好きだったこともあり、“職人(物作り)の世界で食べていきたい”と思い、20歳の頃木工の世界に入られたそうです。ここで働いてみたい!と思っていたという工房に最初はアルバイトとして、掃除にはじまりさまざまなことを学ばれました。30歳で独立しようと決めていたそうで、それまでに3箇所の工房でフラッシュ家具や無垢の家具、店舗の内装、大きい物から小物まで技術を磨かれたそうです。

製材を仕入れて作品を作る作家・工房も多い中、高塚さんの工房では実際に会津など現地まで丸太を見にいき、入札し、製品に合わせて細かく製材の指示を出しています。径級を見て、これはパン皿用、など商品によって振り分けます。効率よく材料を使うにはどうしたらよいか、出来るだけ材料を使いきれるようにしたいと作品を作っていく中で、その経験から製材の指示も細かく出せるようになったそうです。働いている人にとっては、お金は時間との対価。効率的に進められるところに時間をかけすぎると、本来かけたい時間がかけられなくなる、つまり製作に時間を多くかけられるように、効率良く進めることを心がけているそうです。

木の見方ひとつ取っても、「経験」から学んでいく職人の世界。
高塚さんも若い頃には、製材所での勉強会にも積極的に参加し、経験豊富な先輩達からたくさんのことを教わったと言います。ちょうど取材の数日前にも、工房の職人さんたちを連れて会津へ行かれたそうです。身銭を切ってみるのも経験のひとつだからね、と高塚さん。それぞれみなさん入札し買い付けしたそうですよ。

さて、木工製品は丸太から最終的に私たちの手に渡るまでには、非常に沢山の時間と人々が関わっています。大まかに言えば山から木を伐採し、丸太は皮むき、木取りなどの作業を経て製材され、乾燥の工程を経て出荷されていきます。木の種類等によっても伐採時期が異なったり、工程の間には灰汁を抜くために寝かせたり、乾燥させるといっても自然乾燥や人工乾燥があったり、乾燥させる水分率も木の種類や用途によって異なったり、作家さんが実際に木材に手を加える前までにも沢山の工程を経ています。

木工の場合、自分の手で「材料」である木そのものを作れませんし、必ずしも気に入った木材がいつでも手に入るとは限りません。つまり前もってある程度の量の木材を買い付け、保管しておく必要があるのです。効率的に仕事をこなさなくてはならないわけですね・・・。工房での作業も効率よく組まれています。仕事は基本的に朝7時半からお昼休みをはさんで、4時半まで。「午前中が勝負!」と高塚さん。午前にちゃんと仕事ができると、うまく進む気がするのだとか。これはオフィスワークなどにも共通して言えることかもしれませんね。お仕事が終わったあとは工房を他の若手職人さんらに開放しており、自分のやりたいものや勉強などに使われるそうです。

LOCCAでも人気の花型コースターの製作行程を見せていただきました。
みなさんそれぞれ「自分の場所」があるそうで、道具もそれぞれが気に入った物を使われています。

まず、糸鋸で大まかに形をとります。

底、側面を機械でカットしていきます。

そしてサンドペーパーを機械でかけていきます。
  
左が研磨する
前、右が後です。

いよいよ彫りの作業です。まず、ふちに彫りを入れます。

そして中の部分は真ん中から、一定の早さで彫っていきます。

真ん中に一列。二列目はその間に彫りを入れていきます。

最後は番手の細かいペーパーで1点1点手作業で仕上げていき、やっと完成です!
   

今や小さいLOCCAのような店から、高級ホテルまで、さまざまな場所で見かけることが増えた木工房 玄の作品。10年以上前では考えられなかったSNSやインスタグラム等で広く拡散され、海外からもお客様が来る現在。しかし一方で、注文に追われるように製作する毎日で、疲れたり、ネガティブな思考になったりすることはないのでしょうか?と、少し難しい質問を投げかけてみました。
「20歳からやっているからこういう毎日のリズムが生活になっていて、疲れるということはないね。でも若手がいなかったらネガティブになっていたかも。僕は本当に仕事のない厳しい苦しい時代があったんです。だからたまに思い返すと、追われていてもこっちのほうがずっといい!と思うんだよね」と高塚さんは言います。

ところで、どういう人が木工職人に向いているのでしょうか?
「あまりにも不器用な人じゃなければ。やる気、やり続けることができるかどうかの方が大事だろうね。僕は5年間コーヒーをいれていました。しばらく後輩がいなかった、ということなんだけど。。。つまり、後輩が入ってくれば新しい仕事をやらせてもらえるのだろうけれど、それがかなわない状況だったので、どうやったら仕事をやらせてもらえるのか、工夫しました。例えば珈琲を淹れるにしても器に対してどのくらいコーヒーをいれるとマグがよくみえるか、美味しくなるか、気を遣いましたね。どんな小さな仕事でも、どうやったら良くなるかを工夫すること、想像することが大事。親方が次に何をするか、ちゃんと見ているか。さりげなく持っていくと、よく思ってもらえる。ごまをする、ということではなくね。良い意味で可愛がってもらって、色々なことを教えてもらったり、仕事をさせてもらえたり、経験を積むことができたんだと思います」
木工房 玄では高塚さんが代表ですが、会社という感じでもないし、親方と弟子、という関係でもないかなぁ、と言います。
それぞれが工房の一端を担う一職人であり、仲間であるという気持ちが高塚さんにはあるようです。

最初は高塚さんがひとりで始めた工房も、今では3人の若い職人さんたちが一緒に働いています。担当を決めるのではなく、全員が、一通りの工程をこなすことができるそうです。他の職人さん達からみると高塚さんはいわゆる「上司」にあたるわけですが、みなさん「この工房に入って良かったです!」と声をそろえる。「俺の前だから」と笑い飛ばす高塚さん。こんな感じでとても明るい工房です。

丸太からこの製品ができるまで、実に多くの年月と、工程と、人の手と、思いがあります。私がLOCCA をやっている理由の1つに職人さんが好き、ということがあるのですが、毎回お話をうかがうたび、職人さんたちの「思い」に触れて感動します。人の手がかかったモノには特別な力があると、思います。モノ言わぬモノが、手に触れ、使うことで、ほっと人の心を和ませたりするのではないでしょうか。昨今、「ていねいな暮らし」という言葉が目に付きますが、具体的にどういうことだろう?と思う人もいるのではないでしょうか。買ってきたお総菜でもお気に入りの器に移し替えたり、ひとつのものをずっと大事に使ったり。自分にとっての居心地の良い「大切」なことを意識すると、自然に生活も丁寧で上質になってくるのではないでしょうか。

真剣に木と向き合い、思いを込めて作られた木工房玄の作品、是非使ってみてください。貴方の暮らしに寄り添う、大切な一枚になってくれると思います。

木工房 玄のメンバー 左から倉持 海音(くらもちうみと)さん、代表:高塚 和則(こうつかかずのり)さん、黒子 萩平(くろこしゅうへい)さん、関谷 聡(せきやさとし)さん