垣本鉄工所訪問

2018.11.25

 
 
奈良県生駒郡三郷町、風の神様として有名な龍田大社のすぐ傍、法隆寺にも続く歴史ある道沿いを歩くと「株式会社カキモト」の建物が目に入る。LOCCAのオリジナル箸置きやカトラリーレストを製作している「垣本鉄工所」の母体になるのが、株式会社カキモトだ。
田畑が広がる集落に、農耕機具を製造する村の鍛冶屋として初代 垣本梅吉さんが明治40年に創業。戦後、産業化が進み鍛冶屋からの変革が迫られ、金属加工業の鉄工所に。その後は大型加工機を導入し、産業機械の部品を生産するように。平成元年には社名を株式会社カキモトへ改名。
今でもご近所さんからは親しみをこめて「鍛冶屋さん」と呼ばれることもあると笑う梅吉さんのご子孫にあたるのが、本日お話をうかがった垣本雅之さんだ。株式会社カキモトの8割は自動車パーツ等の工業製品だ。そして2割の工芸品を制作されている。工業製品と工芸品の両方をやられている鉄工所はは珍しいため、新聞などメディアに取り上げられることもあるという。

鉄工所で、LOCCAで扱っている「カトラリーレスト」の仕上げ作業を見学させてもらった。
普段は機械用のパーツを作っている職人さんが、手作業で仕上げる。
すでに成形されたものが準備されていた。
   
先ずはバーナーで表面を焙る。この工程を行うことで鉄の色合いが出て、錆が進行しにくくなるのだそうだ。ゆっくりとバーナーで1本1本の全面を手作業で焙っていく。

次に充分に温度を下げた六角棒に溶かした米糠蝋をコーティングする。すぐに油にいれるとムラが出やすくなるので温度を一旦下げるのだそう。160度程にあたためた米糠蝋が入った鍋に入れ、表面をコーティングする。米油は鉄にとても馴染みやすいので、垣本さんのところではペレット状の米糠蝋を溶かし使っている。まだ熱いうちに布を使い、手で油を拭きながら磨きあげていく。被膜は厚すぎても質感が変わってしまうため、どのくらいの間鍋に入れているのかはカンが頼りなのだという。一般の方でもこの仕上げ作業は可能だが、ここまでの高温で作業をするのは怖いし危ないかもしれない。メンテナンスに出していただければ米糠蝋仕上げも可能(別途ご相談下さい!)。また、ご自分で作業される場合は、かなり熱くなるため必ず軍手など手を保護することを忘れずに。
カトラリーレストの仕上げを見学させていただいたあと、工場の中も見せていただく。中には様々な工作機械がある。工芸品は垣本雅之さんの手掛ける垣本鉄工所ブランドの商品のほかに、雅之さんのお姉様が担当されているレーザー加工を施したオリジナル製品もある。鉄板にレーザー加工を施し、行燈やランプ、アクセサリーなどに仕上げる。行燈は有名な寺社に納められているものもあるのだとか。
  
工場に併設されているギャラリーに移動し、話をうかがう。奈良は*TEIBAN展をはじめ、横のつながりを大切にしているという印象がある。
*NARA TEIBAN・・・ 奈良県と県内事業者が、ロングセラーを目指すモノづくりを目指し、「官民協働」で取り組んでいる「奈良ブランド開発支援事業」の一環の「TEIBAN展」。毎月集まって勉強会も行うなど、積極的に活動している。かくいう私も銀座松屋のTEIBAN展で垣本鉄工所のオリジナル製品を見かけたのをきっかけに、声をかけさせていただいた。地元でものづくりに携わっている彼らだが、常に「今」を感じるブラッシュアップされた商品作りをされているのが大変興味深い。パッケージ等の見せ方にもこだわりを見せる。
 
最近はクラフトフェアなどでもフライパンなどの鉄製品が増えたように思う。個人作家さんも増えてきた。その中で、鉄工所が自らブランドを立ち上げプロダクトを作る、というのは珍しいのではないだろうか。鉄という自然のものを、もっと身近な生活の中で使って欲しい、という思いはこの垣本鉄工所のブランドコンセプトの1つでもある。また、今回のカトラリーレストや箸置きのようなオリジナルデザインにも丁寧に対応し製作してくれる、というのもショップにとっては嬉しい取組みである。

食卓に鉄がある、というのはたとえ小さな物でもテーブルの雰囲気が変わるように思う。「黒」という色の効果もあるだろう。かといって他のうつわや料理を邪魔しない、という所も良いと思う。
ただ、少し残念だなと思うのが、錆びると使えないのでは、いう先入観をもたれることが多いということ。LOCCAの商品についても「これ、サビないですか?」という質問をいただくことがある。自然な現象として、もちろん錆びることはありうる。しかし錆が出たとしても落とし、手入れしながら使い続けていくことが可能なのが鉄の良いところだ。

メンテナンスがすごく大変なのでは?という質問も多いが、それは陶器や漆器にも言えることだが、「物を自分の手で育てていく」という楽しむ気持ちで接していただくのが一番だと思う。毎日使うことがコツといえばコツだ。

また、赤錆を出たところだけ落として、米油をつけて焼いたり、お茶や赤ワインなどに漬けたりすることでまた味わい深い表情にしていくこともできるという。「今まではやったことがなかったけれど、あなたに言われて色々試してみたのよ」と言われると、人を動かす一旦を担うことが出来ているとしたら嬉しい、と垣本さん。

素材によって扱い方が変わるとはいえ、自分で買った自分のものなので、もっと自由に使っても良いのではないだろうか。買った状態を保とうとする人が特に日本人には多いような気がする。垣本さんも売る際には「どんどん傷つけてくださいね」などと声がけすることもあるそうだ。雑に扱うとこのようになりますよ、と実験例を展示し、説明するようにもしている。買ったときから変化したとしても、味として使い込んでもらう方が嬉しいと言う。彼らのコンセプトにもあるように、モノづくりへの想いを使う方に毎日感じてもらいながら、いつの間にか愛着のある大切なモノとして、受け継がれていくモノになって欲しい。

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