作家インタビュー 平松祐子(パート1 日本語)
Artist Interview, Yuko Hiramatsu

2014.04.10

茨城県潮来市で作陶する陶芸家の平松祐子さんにお話をうかがった。

ジローちゃんと平松さん人懐っこい平松家の番犬?ジローちゃんと。

*平松さんの作品はLOCCA Online Storeで購入できます

陶芸を志すきっかけなど、聞かせて下さい。
大学時代、お茶を習っていて道具に興味を持ちました。益子の陶器市などは両親も好きで一緒に行ったりしていて、面白いなと思っていました。
大学卒業後、病院(薬剤師)に勤めていたのですが、先輩の同級生が陶芸教室をやっていると聞き、やってみたい!と先輩と一緒に行き始め、そこではまりました・・・。
当時は磁器ではなく陶器をやっていました。

「趣味」の段階を越えるきっかけはあったのでしょうか。
病院での仕事も嫌いではありませんでした。でもこのままずっと勤めていていいのか?と。陶芸をしている時の、何かに集中できることがとても楽しくて、そういう好きなことをもってやってみてもいいんじゃないかと思ったんです。
本格的に学ぶにはどうしたらよいだろうと考えた時、弟子入りするにも身近にそういう人がおらず、どうしたらよいかわからずにいたころ、学校があるというのを陶芸の先生がしていたのを思い出しました。調べると、瀬戸市の窯業高等学校に附属した専攻科というのがあり、公立で授業料が安かったので、ここしかないんじゃないかと、見学に行きました。
なるほど。最初から磁器を学びたくて、瀬戸という場所をあえて選んだわけではないのですね。
はい。たまたまそういう学校が瀬戸にあった、ということですね。

そうはいっても、珍しい公立の窯業専門の学校である。全国から定員20名の枠に陶芸を学びたい人々が殺到する。初心者から、窯業高校の卒業生、すでに陶芸をやっている人、美大を出た人、キャリアも様々な人が集まる。
平松さんはこの学校の陶芸科に入り、2年を経て卒業した。

学校に通っているうちに自分の作りたい物が見えてくるのですか?
見えてこないです(笑)
ある程度カリキュラムでやることがあったので、それに取り組みつつ、作家さんの展示会などに足を運んだりしました。学校でも色々な人の作品を見ることができます。年齢制限もなかったので、様々な作品に触れられたことは良かったと思います。すぐにどういうものが作りたい、ということがわかっていたわけではないですね。やっていくうちに少しずつ、ですね。
釉薬に関しても、どうしてこういう色になるとか、どうやって作るかなど、学校に入るまで全くわからなかったですし。学校でゼーゲル式*を学んですっきりしました。何を何杯と言われてもぴんとこなかったのですが、自分には計算式がある方がわかりやすかったです。
*ゼーゲル式・・・焼き物の性質について、原料割合の大小で考えることが難しいことに気づいたドイツ人のゼーゲルが、焼き物の成分をアルカリ、アルミナ、シリカの3つに分類し、その3つの酸化物の割合が釉や素地の溶け方や焼き締まりに大きく影響することを発見した。そしてそれぞれの酸化物をモル比(原子の数)で表したものが「ゼーゲル式」である。

どの段階で磁器をやってみたいと思われたのですか?
瀬戸の学校で白い土を使っていましたし、瀬戸の学生時代に見た作家さんの作品を見て綺麗だな、と思いました。また、自分で使っていても磁器の方が使いやすかったり、なんとなく自分には磁器の方が向いているかな、と思いました。

材料
瀬戸の磁器土など材料が積まれている工房内

作陶について聞かせて下さい。
平松さんの作品はマットな質感のものも多いですが、どういう工程で作っているのでしょうか?
ロクロで成型し、べたつきがなくなったら削り、素焼きします。表面をつるっとさせたいので、素焼きした後で耐水ペーパーを使い手で1つ1つヤスリをかけます。その後、釉薬をかけて本焼をして完成です。
白っぽい釉薬はあまり気になりませんが、マットなものや赤いシリーズは表面の凹凸が焼いた時に出て来てしまうので、素焼きの後のヤスリの作業ははずせません。特に皿は面が広いので時間をかけてヤスリをかけます。
表面をつるっと
耐水ペーパーを使いヤスリをかける

やわらかいフォルムなど、独特な平松さんらしさがあるように思うのですが、作る際に気を遣っていることはありますか?
磁器は大量生産のイメージがあるので、陶器のような手作り感、雰囲気を持たせたい、と思っています。どこかにカーブを入れたりすると印象が大きく変わるので、そういうちょっとした要素は成型する際にも加えたいと思っています。また、ファンシー過ぎるものは好きではないので、ある程度大人っぽく、でもソフトにしたいな、と心がけています。自分で使って違和感のあるものはどうかと思うので、使いやすく、やりすぎず、ですね。
フォルムについては、色々失敗して今の形のように余計なものがなくなってきた感じです。だんだんこういうのがいいな、となりました。技術的にも最初は気付かなかったり、なんでこんなずんぐりしたもの作ってたの?っていうのもありますよ~(笑)

平松さんの作品の薄さや、華奢な感じも好きなんですが、作る上で難しい点はありますか?
華奢なものや凛としたものが好きなので、小さいものでも雰囲気を似せたいと思っています。フォルムも下を小さくするなどしていますね。ただ、あんまりやり過ぎると使い勝手が悪くなったりするので、調節しながらというのが難しいです。
釉薬の棚
スチール棚に並べられた釉薬

ロクロ
明るい窓辺に置かれたロクロ 夏は劇的に暑い

単純ではないと思いますが、土ものと磁器とでは作る上で難しい点は異なるのでしょうか?
土ものと磁器と両方やってみて思うのは、成型は磁器の方が大変、技術がいるかな、と思います。
土ものは伸びやすかったり、成型しやすいです。
磁器土はひきにくいんです。上に伸びない。すぐ戻ってくる。もちもちでひきにくいものもあります。形がすぐ重力で下がってきたり、うまくとどまってくれなかったりします。

薄いと余計大変ですよね?
ロクロでひくときは土ものは薄くひけるのですが、磁器はどうしても下の部分は後から削るなどしないといけないです。土によっても違いますが、「たたら」といって板状にして作るものは、本当にギャグのように曲がることがあります。素焼きまでは平らになっていても、成型する際に変に手で触った力が残っていると本焼きした時に曲がるんです。私の作品でも輪花などは平らにしないといけないので、ごまかすことが出来ません。
あとは使ったあとの粘土が、水を加えて練り直すこともできるのですが、気泡が入ったりするので商品としては手間だけかかるため廃棄することになり、ロスが多いです。
土のように水で練ってまた使う、ということがやりにくいですね。
陶器では「風合」になるものが、磁器では白いだけにごまかしにくい、ということはあります。慣れるまではロスが多かったりします。
釉薬

ゼーゲル式を使い、様々な釉薬を試験する

窯
ご実家の敷地内に工房と窯を構え、お一人で作陶している

今後はどんなものを作りたいですか?
食器は引き続きやっていきたいです。
今はほとんど白なので、ちょっと色がついたものをやってみたいと思っています。
釉薬を色々研究しているので、今までとは違う釉薬を作りたいと思っています。
装飾を少しつけてみたり。やりすぎない程度に(笑)

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<平松祐子 プロフィール>
茨城県潮来市生まれ
1995 東邦大学薬学部薬学科卒業
2004 愛知県立瀬戸窯業高等学校 陶芸専攻科 卒業
現在   茨城県潮来市にて作陶
2005 工芸都市高岡クラフト展入選
2006 「陶五人展」(ギャラリー悠玄)
2007 「Woman’s Crey Art」(銀座ACギャラリー)
「AKARI展~陶と絵の二人展~」(茨城県鹿嶋市)
2008 「home展~陶と絵の二人展~」(茨城県鹿嶋市)
2008~13「おしゃべりなアート展」(ギャラリー悠玄)
2008‘10’11‘12 「陶・磁・展」(ギャラリー悠玄)

今月、下記の日程で銀座 ギャラリー悠玄の企画展に参加されます。
是非、ご覧下さい!!

「陶・磁・ガラスのある風景」展
2014年4月14日(月)~26日(土)
11:00~19:00(最終日16:00)
休廊:20日